バイクすり抜け問題:法律から見て:まとめ

 

 「追い越し違反」(道路交通法第28条)、「交差点付近追い越し禁止」(道路交通法第30条)、「割り込み」(道路交通法第32条)は時には同時に成り立つことがあります。なぜ似たような条項が存在しているのでしょう。まずはこれらの関係について見てみましょう。

 

 「追い越し違反」は右から追い越すべきところを左から追い越したときや安全な間隔を取らずに追い越したときなど安全でない方法での追い越しを行うことで成立します。ですから安全な方法で規則通りの追い越しをすれば違反となりません。

 しかし交差点の手前30mは追い越しも追い抜きも違反となります。自分が安全と思っても、その行為自体が禁止されているため、どのような形(路肩を使うなど)を取っても同一車線の先行車両の前にはでれません。

 交差点から30m以上手前であればこの違反は考えなくて良いのですが、追い越そうとする先行車両が信号や渋滞のため停止していたり、停止しようとしているような場合、この車両や車列の前に出ようという行為は「割り込み」の違反となります。割り込みの場合もその行為自体が禁じられているため、追い越しのときと違って、自分が安全と思うような方法であったとしても、路肩を使うなどしても違反となります。

 ちなみに同一車線内の追い抜きは不適切な状態から始まった追い越しに過ぎません(こちら参照)。

 

 このようにみると「追い越し違反」(道路交通法第28条)、「交差点付近追い越し禁止」(道路交通法第30条)、「割り込み」(道路交通法第32条)はそれぞれ必要があって設けられている条項であることがわかりますし、大概のすり抜けはこれらの条項に違反しています。

 

 また複数の車両通行帯のある道路(片側2車線以上の道路)では先行車両を追い越す際には右隣の車線を使うことがもとめられています。同一車線内追い越しはできません。車両間をすり抜けていく車両や車道外側線の外側を走る車両は「車両通行帯違反」にも問われます。別々の車線を並走している車の間をすり抜けることはこれに反しますし、右側の車に対しては左側追い越しとなるためやはり違反です。すり抜けの時の側方間隔はかなり狭いので、車間距離の分、後方に離れれば、先行車両と別の進路にいると区別することは困難です。このため、ほぼすべてのすり抜け車両はすり抜けする前に「車間距離不保持」になっています。

 

 また相手車両に恐怖心を与えるような運転(安全性を重視しない運転)は何か事故が起これば「安全運転義務違反」と言われるでしょう。さらに言えば、多くのすり抜け車両は車列の先頭まで行き、一時停止線を越えて停止しますから信号無視になります。

 

 このように「すり抜け」は一度に多くの違反を犯しているのです。違反車両ですから直進車であったとしても優先車両とは言えないでしょう。この点も誤解されていることが多いようです。

 

 あと知っておく必要があるのは法律そのものが「信頼の原則」に基づいているということです。この原則により誰もが交通法規を守ることが前提になっているため、法律を破った後の状態を法の中に特に明記する必要がありません。例えば道路交通法を守る限りは片側1車線の道路であればバイクを含めた車両は原則として1縦列で走ることになります。そのため一定の条件の時に列の先に出ることを可能にするため追い越しなどのやり方が定まっているのですが、その追い越しの仕方を守らなかった行為である「すり抜け」が道路交通法に明記されていないというのも、信頼の原則から考えれば当たり前の話です。

「明記されていないからグレーゾーン」という考えは成り立たないのです。

 

 最後に二段停止線について触れておきましょう。これは本来先頭で信号待ちをすることになった二輪車が車の左折に巻き込まれないように設置されたもので、車列の先頭にいるときにしか利用できないものです。すり抜けのために設置されたと思う人が多く、すり抜けを助長し、事故につながるということで全国的には廃止される方向にあるようです。

参照:警視庁メールマガジン第134号

 

 

 

第二十条  車両は、車両通行帯の設けられた道路においては、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならない。ただし、自動車(小型特殊自動車及び道路標識等によつて指定された自動車を除く。)は、当該道路の左側部分(当該道路が一方通行となつているときは、当該道路)に三以上の車両通行帯が設けられているときは、政令で定めるところにより、その速度に応じ、その最も右側の車両通行帯以外の車両通行帯を通行することができる。
 車両は、車両通行帯の設けられた道路において、道路標識等により前項に規定する通行の区分と異なる通行の区分が指定されているときは、当該通行の区分に従い、当該車両通行帯を通行しなければならない。
 車両は、追越しをするとき、第二十五条第一項若しくは第二項若しくは第三十四条第一項から第五項までの規定により道路の左側端、中央若しくは右側端に寄るとき、第三十五条第一項の規定に従い通行するとき、第二十六条の二第三項の規定によりその通行している車両通行帯をそのまま通行するとき、第四十条第二項の規定により一時進路を譲るとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、前二項の規定によらないことができる。この場合において、追越しをするときは、その通行している車両通行帯の直近の右側の車両通行帯を通行しなければならない。
第二十六条  車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。
 
第二十八条  車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両(以下この節において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
 車両は、他の車両を追い越そうとする場合において、前車が第二十五条第二項又は第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、前項の規定にかかわらず、その左側を通行しなければならない。
 車両は、路面電車を追い越そうとするときは、当該車両が追いついた路面電車の左側を通行しなければならない。ただし、軌道が道路の左側端に寄つて設けられているときは、この限りでない。
 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
第三十条  車両は、道路標識等により追越しが禁止されている道路の部分及び次に掲げるその他の道路の部分においては、他の車両(軽車両を除く。)を追い越すため、進路を変更し、又は前車の側方を通過してはならない。
 道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近又は勾配の急な下り坂
 トンネル(車両通行帯の設けられた道路以外の道路の部分に限る。)
 交差点(当該車両が第三十六条第二項に規定する優先道路を通行している場合における当該優先道路にある交差点を除く。)、踏切、横断歩道又は自転車横断帯及びこれらの手前の側端から前に三十メートル以内の部分
第三十二条  車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない。
 
第七十条  車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。