バイクすり抜け問題:考えてみる:前方とは

 

道路交通法で「前方」という表記はいくつか出てきますが、これについて考えてみます。
前方とはどこまでの範囲を指すのでしょう?真ん前のみ?斜め前も含む?含むならどこまで?これらの答えを求め、今一度、道路交通法を見直してみましょう。分量が多いのですが、「前方」の記述を含む条項は下記のとおりです。
 
1:言葉の定義がなされている第二条二十一。
「追越し:車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。」
 
ここでの「前方」は真ん前はありません。追い越した後、進路変更をして元の車列に戻らなくても追い越しとして成立することは一般的にも認識されていることです。ちなみに片側3車線以上の車両通行帯ない場合に元の車列に戻らなければキープレフト違反になりますし、前方に出ず並走を続けることも追い越し状態を不必要に続けている状態と捉える事ができるので安全な追い越しをしていないという追い越し違反になります。このように車両の先端から真横に引いた線よりも前が「前方」となります。
 
2:追い越しの仕方が示されている第二十八条4。
「前三項の場合(=追い越しを行う場合)においては、追越しをしようとする車両は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」
 
この場合の「前方」は主に前車の真ん前を指すでしょう。追い越そうとしている車両(および路面電車)の前に元に戻るための空間がなければ安全な方法で追い越しをかけることが不可能であるからです。ただ完全に真ん前に限定されるかというと反対方向や後方にも注意せよとの意図から考えると幅広く前方を注意するようにとの広い意味での前方も含んでいると考えるべきでしょう。
 
3:停車中の路面電車がある場合の停止又は徐行を定めた第三十一条。
「車両は、乗客の乗降のため停車中の路面電車に追いついたときは、当該路面電車の乗客が乗降を終わり、又は当該路面電車から降りた者で当該車両の前方において当該路面電車の左側を横断し、若しくは横断しようとしているものがいなくなるまで、当該路面電車の後方で停止しなければならない。ただし、路面電車に乗降する者の安全を図るため設けられた安全地帯があるとき、又は当該路面電車に乗降する者がいない場合において当該路面電車の左側に当該路面電車から一・五メートル以上の間隔を保つことができるときは、徐行して当該路面電車の左側を通過することができる。」

第21条で車両は左折・右折・横断・転回する場合や危険防止のためやむを得ない場合を除き、軌道敷内を通行してはならないとなっているので車両は路面電車とは別の走行ラインを走っていることになります。そのためここでの「前方」も斜め前方を含む前方ということになります。ちなみに路面電車は道路の真ん中を走ったり、止まったりする前提であるため、左側側方を通過する際には安全のため1.5メートル以上の間隔をとり、徐行することがわざわざ明記されています。信号や渋滞の停車車両のすり抜けが合法であれば、このような条項が存在するはずですが、存在していません。
 
4:横断歩道等における歩行者等の優先を定めた第三十八条。
1  車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下「横断歩道等」)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下「歩行者等」)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(停止線が設けられているときは、その停止線の直前。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
2  車両等は、横断歩道等(略。信号で歩行者等の横断が禁止されてときを除外)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。
3  車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。
 
1においての前方は第三十一条と同じで真ん前だけでなく、斜め前方も含んでいることは条項の趣旨から明らかです。本条2と3は第三十条の追い越し禁止場所の条項と対比させて、追い抜きの禁止と捉える考えもありますが、単純にそこで考えを終わらせることには違和感があります。本条2の側方通過される側の車両は対象が限定されていません。第三十二条の割り込み違反のときに問題となる信号や渋滞のため車列に並んで止まっている車だけでなく、通常の駐停車車両もこれらの条項の対象範囲に入ることになります。対象範囲が限定されないのはどのような車両にせよ横断歩道手前に止まっていることにより、横断する歩行者を物理的に確認しにくくなるからでしょう。本条3は確かに追い抜きの禁止のようですが、これは横断歩道とその手前では別の車両通行帯を走っている車両であっても前方に出ようとしてはならないということをはっきりさせるために存在しているのでしょう。こちらに該当する道路は片側に3車線以上の車両通行帯をもつところに限られそうですが。この追い抜きの定義に納得されない人も存在するようですが、いずれであってもここでの「前方」は真ん前だけではなく斜め前も含むことは広く了解されるでしょう。ちなみに片側2車線以下の道路であれば車両通行帯のあるなしに関係なくキープレフト走行が求められるため、追い抜き状態を作るには無理があります。
 
5:交差点等への進入禁止を定めた第五十条。
1  交通整理の行なわれている交差点に入ろうとする車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、交差点(交差点内に道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線をこえた部分。以下この項において同じ。)に入つた場合においては当該交差点内で停止することとなり、よつて交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入つてはならない。
2  車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、横断歩道、自転車横断帯、踏切又は道路標示によつて区画された部分に入つた場合においてはその部分で停止することとなるおそれがあるときは、これらの部分に入つてはならない。
 
ここでの前方は進路の前方と限定されています。自分の走っている車線の状況をよく見て判断せよとの内容です。
 
 
以上のように第五十条のように限定して書かれている場合を除いては、「前方」とは車両の先端から真横に引いた線よりも前ということになります。ここでまだ紹介していなかった第三十二条を見てみましょう。
 
割込み等の禁止を定めた第三十二条。
「車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない。」

ここでの前方ですが、対象を限定するような修飾詞がついていないことから、車両の先端から真横に引いた線よりも前を指していることがわかります。車線が別でない限りは前方に出られれば斜め前方であっても、走行時の安全を考えると順番を譲らなければなりません。俗にいう割り込みされた状態となります。一方、車線が別であれば走行の順番は関係ないため俗にいう割り込みの状態とはなりません。このあたりを区別したいためにあえて「前方に出てはならない」ではなく、あえて「前方に割り込んではならない」との表現となっているのでしょう。この表現がすり抜けライダーたちに誤解を与えているのですが・・・。この条項での取り締まり対象は車両であり、これには軽車両(自転車含む)も該当します。

 

まとめ
道路交通法の「前方」とは特に限定されていない限りは真ん前だけけでなく、斜め前(車両の先端から真横に引いた線よりも前)を含んでいる。