バイクすり抜け問題:分析してみる:判例分析

 

法律的にどのように解釈されているのかみてみましょう。

(参考)
厳密には民事裁判と刑事裁判の違いを理解している必要があります。 刑事裁判では一方に過失があるかないかを争う形なので車に過失があるかないか判断されています。ですから刑事裁判で車に過失があるとされた場合でもバイクに過失がないとは限りません。
車1台分のスペースがあいていると(当たり前ですが)車は左折時に念入りな確認が必要です。
でも普段よく見るすり抜けはもっと狭いスペースで行われていると思われます。

 


平成13(ネ)2847(大阪高等裁判所)
民事裁判。
左折車と車道外側線の外側を走行したバイクとの接触事故。
過失は車:バイク=4:6。
車道外側線の外側は車道ではないので通行は許されない。

「車の運転手にも,交差点を左折するに当たり,左後方への注意を欠くという基本的な過失があったことは明らかであり,被控訴人は,控訴人らが本件事故によって被った損害を賠償する責任がある。しかし,前記認定のように,本件事故は,バイクの運転手が車道外側線の左側をほしいままに前方の安全を十分確認することなく,漫然走行するという,本来,許容されない行為を行ったことによってもたらされたものであるから,控訴人Aの側に過半(6割)の責任を負担させるのが公平である。」



昭和45(あ)708(最高裁判所第二小法廷)
刑事裁判

適切な左折方法であれば車の過失は問われない。

「交差点で左折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な左折準備態勢に入つたのちは、特別な事情がないかぎり、後進車があつても、その運転者が交通法規を守り追突等の事故を回避するよう適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足り、それ以上に、あえて法規に違反し自車の作法を強引に突破しようとする車両のありうることまでも予想した上での周到な安全確認をなすべき注意義務はなく、後進車が足踏自転車であつても、その例外ではない。」



昭和50う1077(東京高等裁判所)
刑事裁判。
車が1.5mの間隔があけ、10秒以上停止してからの左折ではどちらも問題ありとされている。

「自動車が道路外の場所に入るため左折しようとしてその入口の手前にさしかかつた場合において、左側に後方から来る二輪車の進入可能な間隔を残しており、かつ約一〇秒間停止したのちに左折を開始しようとするときは、あらかじめ左折の合図をしてこれを続けていても、後進車が左折による進路の変更を妨害することがないものと信頼してはならず、後進車の有無及びその動静に注意を払い、特に左後方の安全確認をしたうえ左折を開始すべき注意義務がある。」

バイクにも「視野を妨げられた被告人車の前方に横断歩行者又は他の車両のありうることが十分予想されるのであるから、バイクは相当に減速し、安全な速度で被告人車の左側を通過すべきであつた。したがつて、被害者にも相当大きな注意義務違反があつたというべきである。」

とされています。

ただし、客観的にみて十分なスペースがあった場合ですから、スペースが狭くなるにしたがってバイク側の過失が大きくなると考えられます。



昭和47(あ)1348(最高裁判所第二小法廷)
刑事裁判。
さすがに1.7mも空いていると駄目らしい。

「交差点で左折しようとする車両の運転者は、交差点の手前約二二メートル付近で左折の合図をした場合であつても、車道左側端から約一・七メートルの間隔をおいて徐行し、進路を左側に変更すると自車の左斜後方を追尾しその左側を追い抜く可能性のある後進車(自動二輪車)の進路を妨害してこれと接触する危険があるときは、同車の動静に注意を払い安全確認をしたうえ左折を開始すべき注意義務がある。」

 

ただし、これは車のドライバーに過失があるかないかを問題とした裁判であり、二輪のライダーに過失があるかどうかについては触れられていません。刑事裁判においては別々に過失の有無が認定されるのです。ですからこの判決をもってこのようなケースのすり抜けライダーに過失がないとは言えません。しかし、無謀なすり抜けが横行している現在ではドライバーにとっては残念ながらすり抜けライダーの存在を予測できます。予測できる以上は左折時にはある程度幅寄せしておくことが求められていると言えるでしょう。このドライバーはもう少し幅寄せておくべきでした。


昭和43(あ)483(最高裁判所第三小法廷)
刑事裁判。
状況によっては2m空いていても過失は問われない。

「交差点で左折しようとする自動車の運転者は、進入しようとする道路の幅員が狭く、かつ鋭角をなしているため、あらかじめ道路左端に寄つて進行することが困難な場合にも、道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路左側に寄つて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上の方法を講じて、左後方のいわゆる死角にある他車両の有無を確認するまでの義務はない。」

 

ポイントは「できる限り道路左に寄って徐行」「後続車の有無を確認した上で左折開始」でしょうか。その上でなら無謀な速度での無謀なすり抜けはないものと思うのは仕方ないとのことでしょう。



昭和47(あ)682(最高裁判所第一小法廷)

刑事裁判

「交差点を右折するため、中央線に沿つて適式な右折合図をしながら右折を始めようとする車両の運転者としては、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)三四条二項に違反して交差点手前約六米の地点から右折を開始したとしても、それが、右規定に従つた右折方法に比し、後続車との衝突の危険を一層増大させるものでない場合には、対向車線内において自車の右側を高速で追い越す後続車のあることを予期し、または容易に予期しえた特段の事情がないかぎり、より周到な後方安全確認をなすべき注意義務はないものと解するのが相当である。」

 

 

以上の判例をより良く理解するためには「信頼の原則」も学びましょう。